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高松地方裁判所 昭和53年(ワ)99号 判決 1980年2月25日

原告

菅義徳

被告

香川県

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇六万円及び内金四六〇万円に対する昭和五一年一一月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、原告において金一五〇万円の担保を供するときは、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二四五万五〇八九円及びうち金二〇九〇万五〇八九円に対する昭和五一年一一月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、昭和四九年七月三〇日午後九時五〇分ころ、香川県坂出市加茂町五八四番地先香川県県道(通称産業道路。以下本件道路という。)を、自動二輪車(登録番号香ま一三四八号、以下本件車両という。)を運転して、時速六〇キロメートルをやや超える速度で北から南に向つて進行中、右道路は別紙見取図記載のとおり現場まで四車線の道路が現場以南二車線となり、南行車線が行き止まりとなつていたところ、折柄の降雨のため、南行車線の行き止まりに気付くのが遅れ、減速ないし右転の措置が間に合わず、行き止まりに設置してあつたガードレールに激突し受傷した。

2  責任原因

本件道路は、前記のとおり県道で、しかも被告がその管理者であるところ、本件事故は、次のとおり道路の設置及び管理に瑕疵があつたことにより発生したものであるから、被告は国家賠償法二条一項により本件事故によつて被つた原告の損害を賠償すべき責任がある。なお、本件事故発生については、原告自身にも制限速度違反及び前方注視違反の各過失があるので、この点を考慮し、原告の全損害のうち、被告に負担させる額はその三分の一が相当である。

(一) 本件道路は、別紙見取図記載のとおり、片側二車線が急に途絶している状態であるのに、道路管理者たる被告は、単に黒黄縞のガードレール(黄部分の塗装は螢光塗料でなかつた。)を設置したのみであり、右ガードレール支柱四本の各上端には直径約〇・一メートルの反射鏡は備えつけてあるものの、事故前相当の期間にわたつて通行車両のはねた泥土が附着したままの状態で、その用をなしていなかつた。

(二) 南行車線の中央に五メートル間隔で断続して引かれている車両通行帯区分線(以下区分線という。)はガードレール以南まで直線に引かれており、その他前方で道路が狭隘となるべきことを表示する標識等は何ら設置されていなかつた。

(三) 一般に、通行車両は、暗夜、特に降雨時の場合など、前方注視をすべきは勿論であるが、道路に表示された外側線や区分線を信頼して進行するものであり、反射効果のない本件ガードレールのごときは、その発見が遅れがちとなるものである。

(四) 右(一)ないし(三)記載のとおり本件道路の設置及び管理に瑕疵があつたことは、本件事故後、被告が南行車線につき、前方で道路が狭隘となる旨を示す標識を三種類、十数個設置し、車道外側線をカーブさせるなどして、道路の設置及び管理に改善を示していることからも明らかである。

3  損害 六二七一万五二六七円

(一) 治療経過

(1) 原告は、本件事故により、頭部外傷第Ⅲ型、左大腿骨挫滅開放骨折、右下腿骨骨折、頸髄損傷、尿道破裂、右腓骨神経麻痺、左拇指基節骨骨折の傷害を受け、その治療のため、事故当日から昭和五一年四月二六日までの六三七日間坂出市内の回生病院に入院し、その間昭和四九年八月一日左大腿切断術を、同月一三日左股関節離断術をそれぞれ実施し、同年一〇月一七日排尿障害のため、腹壁膀胱瘻造設術を実施し、昭和五〇年九月ころからパイロン義肢を装着して機能訓練を行うまでに回復した。

(2) 次いで、原告は、主として尿道狭窄の治療のため、昭和五一年四月二七日岡山大学医学部附属病院に転医し、同日から同年八月四日までの一〇〇日間同病院に入院し、入院後一〇〇日目にあたる同年八月四日、左股関節離断、右足指筋力低下の後遺障害を残して、症状固定〔自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)施行令別表後遺障害等級表四級五号該当〕との診断を受けた。

(二) 診療関係費 三六九万六六八〇円

(1) 治療費 二〇万三八八〇円

原告は、回生病院に入院中、その治療費として二〇万三八八〇円を支払つた。

(2) 入院に伴う雑費 三一万二八〇〇円

原告は、入院に伴う雑費として、入院通算七三七日間の、当初九〇日間一日当り六〇〇円、以降一日当り四〇〇円の各割合による合計三一万二八〇〇円の支出を余儀なくされた。

(3) 輸血提供者に対する謝礼 一八万円

原告は、輸血提供者に対し合計一八万円の謝礼を支払つた。

(4) 入院付添看護費 三〇〇万円

原告は、回生病院に入院中の昭和四九年八月一日から昭和五一年三月三一日までの二〇ケ月間付添を必要とし、一か月一五万円の割合による合計三〇〇万円を付添人である訴外入口静子に支払つた。

(三) 逸失利益 五〇五一万八五八七円

(1) 原告(昭和三二年一一月二一日生)は、中学校卒業後、一旦高等学校に入学したが二年で退学し、昭和四九年五月二〇日(当時一六歳)から、香川県丸亀市今津町八九二番地の一所在の三共ボデー有限会社(以下三共ボデーという。)に自動車整備修理の臨時工として勤務し、三共ボデーから通勤手当を除く給与日額二四〇〇円を得、賞与として年間に基本給一八〇〇円の七五日分一三万五〇〇〇円が支給される予定であつた。従つて、一か月二五日稼働としての予定年収は八五万五〇〇〇円となる。

(2) 原告が本件事故にあわず、現在まで勤務を継続していた場合に、右三共ボデーから受ける給与日額は、その後実施されたベースアツプ及び昇給からして、通勤手当を除き四二五〇円、賞与は基本日給三五〇〇円の七五日分二六万二五〇〇円となるので、その予定年収は(1)同様の方法で算出すると一五三万七五〇〇円となる。

(3) 原告の、右一六歳時及び現在(二〇歳三か月時)の収入から、原告の逸失利益を算出するため、「賃金センサス第一巻第一表のうち、男子労働者産業計、企業規模計、小学・新中学卒」により、相当金額を照合すると、

イ 原告一六歳時、即ち賃金センサス昭和四九年統計(以下何年統計ともいう。)によると、一七歳未満の平均年収は七八万九八〇〇円であつて、原告の推定年収より六万五二〇〇円低い。

ロ 昭和五一年統計によると、一八歳一九歳の平均年収は一二六万二五〇〇円、二〇歳ないし二五歳の平均年収は一六五万三四〇〇円であるので、その単純平均(二〇歳九か月相当)は一四五万七九五〇円となつて、原告(二〇歳三か月)の現在の予定年収より七万九五五〇円低い。

ハ また、原告一六歳時と現在の予定年収の平均一一九万六二五〇円(一八歳六か月相当)は、五〇年統計一八歳一九歳の平均賃金一一九万七二〇〇円にほぼ等しい。

ニ 従つて、原告の逸失利益は、今後のベースアツプを考慮外としても、少くとも一六歳一七歳時につき昭和四九年統計、一八歳一九歳時につき昭和五〇年統計、二〇歳時以降統計上の稼働可能期間六七歳までにつき昭和五一年統計によつて、それぞれ得た数額を下廻わるものでなく、右各統計及び労働能力喪失率九二パーセントによつて、年毎ホフマン計算により算出した逸失利益は別表一記載のとおり五〇五一万八五八七円となる。なお、計算の便宜上、症状固定により原告の損害が確定した日以後初めて到来した原告の誕生日の前日である昭和五一年一一月二〇日を基準日として、同日時点での現価を算出した。

(四) 慰謝料 八五〇万円

原告の入院に伴う慰謝料は一八〇万円、後遺障害による慰謝料は六七〇万円合計八五〇万円が相当である。

4  弁護士費用 一五五万円

原告は、昭和五三年二月一六日、弁護士中村詩朗、同渡辺光夫に着手金三〇万円を支払つて、本件訴訟を委任し、判決確定時に被告の責任額として認容された数額の六パーセント(全額認容の場合は一二五万円)を報酬として支払うことを約した。右合計一五五万円は本件事故と相当因果関係のある原告の損害である。

5  結論

よつて、原告は、被告に対し、国家賠償法二条一項により、前記3の損害額のうち三分の一に相当する二〇九〇万五〇八九円に、前記4の弁護士費用一五五万円を加えた合計金二二四五万五〇八九円及びうち金二〇九〇万五〇八九円に対する損害確定後の前記基準日の翌日である昭和五一年一一月二一日から完済まで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1(事故の発生)のうち、本件車両の速度及び事故当時の気象については否認し、その余は認める。

2  請求原因2(責任原因)のうち、本件道路が県道で被告がその管理者であることは認めるが、その余はすべて否認する。

3  請求原因3(損害)はすべて知らない。

4  請求原因4(弁護士費用)のうち、原告が、原告代理人両名に本件訴訟を委任し、同代理人両名に主張の着手金を支払い、かつ、同代理人両名と報酬契約を締結したことは認めるが、その余は争う。

5  本件事故は、次のとおり原告の一方的な過失によつて発生したものである。すなわち、本件事故当日は、晴天であり、原告は、当夜午後一〇時前ころ、本件車両であるホンダ七五〇CCの大型自動二輪車の後部荷台に渡辺行久(以下渡辺という。)を同乗させ、本件道路を時速一〇〇キロメートル以上の猛スピードで暴走して前方注視を怠り、事故現場の南行二車線の通行止めのため、黄黒の二色をもつて見易いように虎斑に塗られ、これに四個の反射鏡を備えて斜めに設置されていたガードレールの警戒標識の中央寄りの個所に激突してこれを破損した。その衝撃で、原告は衝突地点から約六四・五メートル、同乗者の渡辺は同地点から約三七・一メートルはね飛ばされて転倒負傷したものであつて、原告がかかる暴走を行なわず、法定速度毎時六〇キロメートル以内で進行し、かつ、前方注視を怠らなければ、全長一三・二メートルに及ぶ通行止めガードレールに激突する筈がなく、斜めに設置されたガードレールに沿つて、従来からある南行車線に容易に進入できるものであつたから、本件事故は挙げて原告の右一方的な重大な過失に起因するものである。

6  本件道路の南行車線が二車線から一車線に減少するにしても、前記のとおり通常の運転をすれば、容易に通行できるものであり、事故現場のガードレールの上部に設備した反射鏡(視線誘導標)は、事故当時、少なくともその四〇ないし五〇メートルの手前から容易に発見できるように輝いていたものであり、また、外側線は当時なかつたものである。本件事故後、被告が原告主張の標識等を加えたのは、従来通りの標識で道路の設置及び管理は十分であり、本件事故以外には全く事故がなかつたものであるが、原告のような無暴運転に備えて、念のため行なつたものであるから、通常の正規の運転に対しては、従来の設備をもつて十分足りるものである。このように、被告の本件道路の設置及び管理には何ら瑕疵はない。

三  被告の抗弁(消滅時効)

仮に、本件道路の設置及び管理に何らかの瑕疵があつたとしても、本件事故の発生は、昭和四九年七月三〇日であるところ、原告は、昭和五三年三月八日に至つて本訴提起に及んだものである。従つて、原告の被告に対する本件事故による損害賠償債権は、事故発生の日から三年を経過した昭和五二年七月三〇日消滅時効が完成した。よつて、被告は本訴において右時効を援用する。

四  抗弁に対する原告の認否

被告の抗弁のうち、消滅時効が完成したとの点を除き、その余の事実は認める。

五  原告の再抗弁

1  原告は、昭和五〇年一月三一日丸亀簡易裁判所に対して、被告を相手方として本件事故による損害の賠償を求める調停の申立をしたところ、被告は、昭和五〇年三月一四日の第二回調停期日において、本件道路に警戒標識を設置していなかつたこと及び区分線を直進させていたことについて、道路管理者としての瑕疵責任を認め、次いでその後の調停期日において、原告の過失割合を検討し、調停委員会の提示した調停案の金額を種々検討した結果、その額には応じられない旨述べたため、昭和五三年一月二七日調停が不成立に終つているのであるから、これは時効中断事由たる債務の承認に該当する。従つて、時効は昭和五〇年三月一四日中断している。

2  仮に、右1の再抗弁が理由なしとするも、原告の次の各損害については、消滅時効が完成していない。

(一) 本件事故による原告の損害は、日々発生するものであるから、本訴提起の三年前、すなわち昭和五〇年三月九日以降に生じた損害については、時効は完成していない。

(二) 仮に、原告の治療中の損害が一体としてすべて時効の対象になるとしても、原告の後遺障害による損害は、症状固定日である昭和五一年八月四日に至つて初めて確定したものであり、少くとも後遺障害による損害については時効は完成していない。

六  再抗弁に対する被告の認否

1  原告の再抗弁1のうち、原告がその主張のとおりの調停の申立をし、その主張の日に調停が不成立に終つたことは認めるが、その余は否認する。

2  原告の再抗弁2の(一)(二)はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)について

原告が、昭和四九年七月三〇日午後九時五〇分ころ、本件車両を運転し、本件道路を北から南に向つて進行中、右道路が別紙見取図記載のとおり事故現場までの四車線の道路が現場以南二車線の道路となり、南行車線が行き止まりとなつていたのに気付くのが遅れ、減速ないし右転の措置が間に合わず、行き止まりに設置されていたガードレールに激突して受傷したことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一号証、同第五号証の一の二、同号証の二ないし四、同第八、第九号証、原告本人尋問の結果を総合すると、本件事故当時の天候は晴天であつたこと及び原告は事故当時少なくとも時速八〇キロメートルを超える高速度で本件車両を運転していたことが認められる。原告は、本件事故当時、雨が降つていた旨主張し、前記甲第九号証(原告の検察官に対する供述調書)及び原告本人尋問の結果中には右主張に沿うような供述記載と供述部分があるが、右各供述は前記甲第五号証の一の一(捜査報告書)及び同号証の一の二(第一回実況見分調書)の各記載に照らして到底措信できない。また、原告本人尋問の結果中には、本件事故当時の速度は時速六〇ないし七〇キロメートルであつた旨の供述部分があるが、この供述部分は前掲各証拠に対比して措信できない。他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

二  請求原因2(責任原因)について

本件道路が県道であり、被告がその管理者であることは当事者間に争いがない。そして、当事者間に争いのない前項の事実に、前記甲第五号証の一の二、同号証の二ないし四、成立に争いのない甲第二号証、同第六号証の一ないし三、検証の結果を総合すると、

1  本件事故現場の道路は、南北に通ずるアスフアルト舗装の平坦な歩車道(歩道部分の道路は未完成)の区別のない直線道路で、事故現場のガードレール以北の道路は四車線で幅員は約一四メートルであるが、右事故現場以南の道路は東側道路部分が未完成のため二車線でその幅員は約七メートルであり(別紙見取図参照)、車両の最高速度は時速六〇キロメートルであること、

2  本件事故当時、右ガードレール以北の道路には、別紙見取図記載のように道路の中央からそれぞれ東西に約〇・五メートルの各地点に平行して白線による二条の中央線(センターライン)が表示され、更にその東西両側の各車線(幅員各約六・五メートル)の中央に、南北に約五メートルの間隔を置いて長さ約五メートルの白線による通行帯区分線が表示されているが、道路東側部分の南行車線の区分線はガードレールの南にまで及んでおり、また、事故現場以南の二車線道路には前記道路西側部分の区分線が延長され、これが道路中央線(センターライン)となつていること、

3  事故現場のガードレールは、前記二条の中央線に対しほぼ四五度の角度で北東方向に向け、四本の支柱により高さ約〇・八八メートル、長さ約一三・三メートルの鉄製のものであること、

4  本件事故当時、北から南に向つて進行する車両に対し、事故現場附近で道路が四車線から二車線に減少し、道路が狭隘となることについては、前記ガードレールの四本の支柱上部にそれぞれ直径約〇・〇八メートルの反射鏡が各一個宛合計四個取付けられ、また、ガードレールが夜光塗料により黒黄の二色で虎斑模様に塗られていたほか、特に道路が狭隘となることについての警戒標識、道路表示等はなかつたこと、

5  右四個の反射鏡は、事故当時、現場の北方約一〇〇メートルの地点の道路上から視認可能であつたこと、

6  本件事故現場の道路は、前記のように直線道路であつて昼間における見とおしは極めて良好であるが、右道路の東西各外側は殆んどが農地(田)であつて、僅かに数軒の人家がある程度で現場附近には人家はなく、水銀燈等の外燈設備もないため、夜間は暗いこと、また、夜間の交通量は比較的少ないこと、の各事実が認められ、右認定に反する証人菅義正の事故当時前記反射鏡は全く反射していなかつたとの証言は措信できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、本件道路の設置及び管理上の瑕疵の有無、すなわち、本件道路が道路として通常有すべき安全性を欠いていたかどうかの点について判断する。本件道路は、前記認定のとおり直線で昼間の見とおしは極めて良好であるが、夜間は道路の照明設備はなく暗い道路であり、しかも事故現場以北は四車線の道路であるが、事故現場以南は東側車線にあたる道路部分が未完成のため二車線となり、南行車線を通行して事故現場に向う車両は事故現場の手前で西側車線部分に進路を変更しなければならない状況にあつたのであるから、道路管理者としては、事故現場の北方少なくとも一〇〇メートル附近の地点に進路前方で車線が減少し、進路を右に変更しなければならない旨の標識とか、誘導標識を設置するなどして同所を通行する車両が安全に通行できるよう車両の運転者に注意を与えるべきであることは勿論のこと、道路に表示される中央線、区分線は法的にも自動車運転者にとつても重要な意味をもつものであるから、南行車線が事故現場で行き止まりになり、従つて南行車線の区分線がなくなるとともに道路中央線も事故現場附近で変更され事故現場以南の道路中央線と一致するに至ることを、いずれも道路表示により事故現場の北方一〇〇メートル以上の地点から事故現場に向けて路面に表示し、更に新たに外側線を路面に表示しこれをカーブさせて二車線道路の外側に合わせるなどして、同所を通行する車両の運転者がこれに従つて安全に通行できるようにすべきである。このことは、車両の運転者のなかには対向車の前照燈の照射を受けるなど等の事由により、瞬間的に前方注視がやや困難となりながら、減速・徐行又は停止することなくそのまま道路中央線や区分線を信頼して運転を継続している者がいるという車両運転の現実的状況などに鑑みれば、極めて当然のことというべきである。そして、右標識や道路表示は、道路管理者において容易になしうべきところである。しかるに、前記認定事実によれば、本件道路の管理者である被告は、南行車線が行き止まりになる本件衝突地点にほぼ四五度の角度のガードレールを設置し、これに夜光塗料を塗り、ガードレールの四本の支柱の各上部に四個の反射鏡を取付けたのみで、前記のような標識や道路表示をしていなかつたばかりでなく、事故現場以北の南行車線の区分線はガードレールの南方まで、また、二条の道路中央線はガードレールの南西端までそれぞれ表示され、あたかも南行線が行き止まりになることなく、そのまま南方に続くかのような道路表示をしていることが明らかであり、このような事実関係のもとにおいては、本件事故現場の道路はその安全性の確保の点において欠け、その管理に瑕疵があつたものというべきである。

そして、本件事故は、後記過失相殺の項で認定するとおり、原告が高速度で前方注視を怠り、区分線を信頼しこれに従つて運転していたことも事故発生の一因をなすものであるから、右管理の瑕疵と本件事故との間には因果関係のあることが明らかである。

三  被告の抗弁(消滅時効)について

本件事故が昭和四九年七月三〇日発生し、原告が本訴を提起したのが昭和五三年三月八日であることは当事者間に争いがない。そうすると、原告の本訴提起が本件事故発生の日から三年以上経過していることは明白である。

四  原告の再抗弁(債務承認による時効中断)について

原告が、昭和五〇年一月三一日丸亀簡易裁判所に対して、被告を相手方として本件事故による損害の賠償を求める調停の申立をしたこと及び右調停事件が昭和五三年一月二七日不成立に終つたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一〇号証、証人藤田勉、同菅義正の各証言を総合すると、前記調停事件は、まず第一に、被告に本件道路の管理上の瑕疵による責任があるかどうかの点について調停が進められ、被告は、昭和五〇年三月一四日の調停期日において、本件道路につき警戒標識と分離白線(区分線)について道路管理上の責任があることを認める旨述べていること、そこで第二に、原告の損害額と原告の過失割合との点について現地調査をするなどして慎重に調停が進められ、昭和五二年一二月二日の調停期日において、調停委員会が原・被告双方に対し、「被告が原告に対し九六〇万円を支払う。」との調停案を提示し、当事者双方が右調停案の金額について検討し、昭和五三年一月二七日の調停期日において、原告は右金額を了承したが、被告は内部で種々検討したが右提示の金額の支払には応じられない旨述べたので、同日調停委員会において調停を不成立にして終了させていることが認められる。右認定に反する証人藤田勉の証言部分は前記甲第一〇号証の記載に照らしにわかに採用できない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、時効の中断事由となる承認とは、時効の利益を受けるべき当事者の一方が相手方に対しその権利の存在を認識する旨の観念の通知であつて、その債務の数額などについての一切の事実を承認する必要のないことはいうまでもない。そして、前記事実によれば、地方公共団体である被告は、前記調停事件における昭和五〇年三月一四日の調停期日において道路の管理上の瑕疵による責任を認め、これを前提として調停が進められたが、最終的には原告に対する賠償額について不満を述べたに過ぎないことが認められるのであるから、これらの調停の進行経過をも合わせ考えると、被告は、原告に対し、昭和五〇年三月一四日本件事故による損害賠償債務を承認したものと認めるべきである。

そうすると、被告が債務を承認したとの原告の再抗弁は理由がある。

五  請求原因3(損害)について

成立に争いのない甲第一二ないし第一四号証、証人菅義正の証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告の請求原因3(一)(治療経過)のうち(1)(2)の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、原告の損害額について以下検討する。

1  診療関係費 三五一万六六八〇円

(一)  治療費 二〇万三八八〇円

成立に争いのない甲第一五号証の一、二、証人菅義正の証言を総合すると、原告は、回生病院に対し、本件傷害の治療費として、合計二〇万三八八〇円を支払つたことが認められる。

(二)  入院に伴う雑費 三一万二八〇〇円

病院に入院すれば、これに伴う雑費の支出を余儀なくされることは経験則上明らかである。そして、原告は、前記のとおり合計七三七日間入院しているので、入院に伴う雑費の額は入院当初の九〇日間は一日につき六〇〇円、九一日以降は一日につき四〇〇円と認めるのが相当である。そうすると、原告の入院に伴う雑費の額は合計三一万二八〇〇円となる。

(三)  輸血者に対する謝礼

原告主張の輸血者に対する謝礼一八万円についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(四)  入院付添費 三〇〇万円

証人菅義正の証言により真正に成立したと認める甲第一六号証の一ないし四、同証人の証言を総合すると、原告は、前記回生病院に入院中、昭和四九年八月一日から昭和五一年三月三一日までの間、付添を必要とし、付添人入口静子に対し一か月一五万円の割合による二〇か月分合計三〇〇万円を支払つたことが認められる。

2  逸失利益 三七五〇万六〇九八円

証人草薙卓爾の証言により真正に成立したと認める甲第一七号証の一、二、同証人、証人菅義正の各証言、原告本人尋問の結果に当裁判所に顕著な昭和四九年から昭和五一年までの賃金センサスを総合すると、原告の請求原因3(三)(逸失利益)のうち(1)(2)及び(3)のイないしハの各事実並びに原告の後遺障害は自賠法施行令別表後遺障害等級表四級五号に該当し、その労働能力喪失率は九二パーセントにあたることの各事実が認められる。前記甲第八号証(原告の司法警察員に対する第二回供述調書)中、右認定に反する供述記載部分は証人草薙卓爾の証言及び原告本人尋問の結果に照らして措信できないし、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、原告の逸失利益につき検討するに、原告の収入は、今後のベースアツプ分を考慮外にしても、少なくとも一六歳一七歳時につき昭和四九年の賃金センサス、一八歳一九歳時につき昭和五〇年の賃金センサス、二〇歳から労働可能年令六七歳までにつき昭和五一年の賃金センサスによつてそれぞれ得られた各収入額を下廻るものではないと認められるので、これらの各収入金額を基礎とし、原告の労働能力喪失率を九二パーセントとして、年別ライプニツツ計算法により原告の逸失利益を算出(ただし、その基準日は原告の主張どおりとする。)すると、別表二記載のとおり三七五〇万六〇九八円となる。原告は、逸失利益の算出にあたり、年別ホフマン式計算法によつているが、当裁判所は、本件のような極めて長期(約五〇年)にわたる逸失利益の算出については、より正確な年別ライプニツツ式計算法によるのが相当と認める。

3  慰謝料

本件事故における原告の受傷の内容・程度・入院期間、後遺障害の内容・程度等に鑑みると、原告に対する慰謝料は五〇〇万円をもつて相当と認める。

六  過失相殺について

本件事故発生について、原告自身に制限速度違反及び前方注視違反の各過失があることは原告の自認するところである。そして、前記甲第一、第二号証、同第五号証の一の一、二、同号証の二ないし四、同第六号証の一ないし三、同第八、第九号証、原告本人尋問の結果に検証の結果を総合すると、原告は、事故当日、本件車両(ホンダ七五〇CC、いわゆるナナハン車)の後部荷台に渡辺を同乗させて前照燈上向きでこれを運転し、初めての道路である本件道路を北から南に向け、無謀にも時速八〇キロメートルを超える高速度で進行したため、その風圧で前方を十分注視することができず、顔をやや左右に向けながら南行車線の区分線を頼りに進行中、衝突地点の手前約二六・一メートルの地点に達したとき初めて前方のガードレールを発見したが、高速度のため衝突回避の措置がとれず、そのまま右ガードレールに激突し、その衝撃により右前方約六四・二五メートルの地点にはね飛ばされて負傷したことが認められる。右の事実によれば、原告の無謀な高速度運転と前方不注視とが本件事故の発生及び原告の受傷の程度に大きく影響していることが明らかであり、これらの事実並び本件に現われた一切の事情を斟酌すると、原告の前項の損害のうち被告に負担させる額はそのほぼ一割にあたる四六〇万円をもつて相当と認める。

七  弁護士費用について

原告が原告訴訟代理人両名に本件訴訟を委任し、同代理人両名に着手金として三〇万円を支払い、かつ同代理人両名と報酬契約を締結したことは当事者間に争いがない。そして、本件訴訟の難易、請求額及び本訴において認容する額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は四六万円をもつて相当と認める。

八  結論

以上説示のとおりであつて、原告の本訴請求中、被告に対し金五〇六万円及び弁護士費用を除いたうち金四六〇万円に対する後遺障害固定後の昭和五一年一一月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一)

別表一 逸失利益計算表

<省略>

別表二 逸失利益計算表

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別紙 見取図

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自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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